弁護士が教える登記ができない遺言書とは?
1 遺言作成の目的
遺言を作成する目的は,将来,相続人が争うことなく,スムーズに不動産の名義変更や預貯金の払戻をできるようにすることにあります。
遺言によってどの財産を誰が取得するかを決めたとしても,遺言に不備があり,名義変更や払戻ができなければ,最終的な目的を達成したことにはなりません。
このため,遺言を作成するに当たっては,遺産を受け取ることとなる相続人が,実際に名義変更や払戻をできるようにすることまで注意を払う必要があります。
特に,不動産については,登記申請を受けた法務局が,遺言の記載内容に基づき,登記ができるかどうかを判断することとなります。過去の先例では,わずかな記載内容の違いにより,遺言に基づく登記ができないとされたものもあります。
遺言を作成するに当たっては,このような過去の先例を踏まえ,不動産の名義変更を可能にする遺言を作成する必要があることとなります。
2 登記ができない遺言書の例
登記ができない遺言書の例としては,以下のようなものがあります。
- ⑴ 不動産の特定に不備がある場合
ア たとえば,「私の自宅を○○に相続させる。」という遺言では,相続登記ができない可能性が高いです。
これは,法務局から見れば,「私の自宅」がどこの不動産なのかは,遺言の記載内容だけからは判断することができないためです。
イ このような場合には,「私の自宅が○○県○○市○○町○○番所在の土地・建物であることについて,相続人全員が争わない。」といった内容の上申書を作成し,相続人全員が実印を押印し,相続人全員の3か月以内の印鑑証明書を添付すれば,遺言に基づく登記ができる可能性があります。
しかしながら,相続人のうちの1人でも手続に応じてくれなければ,このような手法を用いることもできません。
ウ このような問題を避けるためには,遺言で不動産を記載する場合には,土地であれば,所在,地番,建物であれば,所在,家屋番号をもって特定するべきです。
- ⑵ 相続人以外の人に不動産を遺贈する場合
ア 「相続人以外の人に不動産を遺贈する。」との遺言により登記を行う際には,相続人全員に,実印を押印し,3か月以内の印鑑証明書を添付するといった協力をしてもらう必要があります。
このため,相続人のうちの1人でも手続に応じてくれなければ,遺贈による登記を行うことができなくなってしまいます。
イ このような場合には,手続に応じない相続人に対して所有権移転登記手続請求訴訟を提起し,勝訴判決が確定すれば,遺贈による登記を行うことができます。
また,家庭裁判所で遺言執行者を選任してもらい,選任された遺言執行者に手続に協力してもらうことにより,登記を行うことも考えられます。
しかしながら,このような手続を進めるには,かなりの時間と手間がかかりますし,手続において,別の法的問題が生じ,問題が複雑になる可能性もあります。
ウ このような問題を避けるためには,遺言を作成した段階で,信頼できる人を遺言執行者に指定しておくべきです。
なお,遺言執行者については,弁護士等の第三者を指定することもできますし,遺贈を受ける人自身を指定することもできます。